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● 規格 基線場なんて言葉は全然知らなかった。ましてや尺の検定なんて、テープを新しく買った時 JISマークがついているからそれでいいじゃないか。テープが古くなった時に基準から外れてい ないかどうかのチェックをする必要は有るだろう。そういう時の為の検査をする場所だろう、正 直な話、私はその程度の認識しか持っていなかった。 しかし、テープのJIS規格はこのテープは定められた長さの、この程度の中に入っています よ。だからこの製品は販売しますよ。という事らしい。 我々の測量でいう、許容誤差という奴だ、しかしこのテープの許容誤差は厄介だぞ、我々は 光波測距儀で測った結果をテープで直接観測して、その計算辺長と実測辺長が自分で適当に 定めた許容誤差の範囲であれば、正解であるとして処理している。その大元のテープが明確 でなくて、本当に差が分かっているのだろうか。そこまで几帳面に考えなくてもという気持ちと、 本当に大丈夫なんだろうかという気持ちが交錯する。当然基本になるものだけに、正確であれ ば、正確なほど良い。 しかし、本で読めば基線場は国土地理院が設置して管理しており、全国でも数少ないものら しい。 わざわざそこまで出かけて行くのは大変だ、そこまでしなくてもという気持ちで何時とはなく基 線場の事は忘れてしまっていた。 ●えらい人 そんな時、「基準点測量の研修に来ないか」と本会のえらい人からのお誘いがあった。どのく らいえらいのかは本人にも分からない程のえらい方だ。正直、当時の私は気乗りはしなかった が、なにせ目の上のたんこぶ、いや雲の上の人からの「来い」という命令に似た強いお誘いで あったのでやむなく研修に参加する事となった。 早朝6時にJRに乗車し2時間30分かけて、愛媛県をほとんど横断。はるばる新居浜市へと 到着した。研修会場に到着すると既に講義は開始され、えらく迫力のある講義が繰り広げられ ていた。 当然、この手の研修は避けて通りたい私にとっては、調査士試験で勉強して以来使用する事 のなかった脳味噌を使用する事となった。 単に帽子をかぶるための道具になりさがっていた頭にとって、中身は完全に機能を停止して おり、豆腐も住めない状態であったほど環境は悪く、当然エンジンはなかなかかからない。た まにかかってもすぐエンスト。我乍ら悲しくなってくる。すっかり頭の芯までくたびれてしまった。 外に出て何やら叫びたい気分。 しかし、外はあいにくの雨、出るに出られない。しっかり1日中講義を効く羽目になる。1日は やっぱり24時間有る事をしっかり実感させられる。夜中の12時になっても講義はとまらない。 翌日も、朝からの雨、本日もやっぱり1日は24時間を実感するのだろうか。もうそろそろ頭 脳の限界に達している。昼、やっと雨が小降りになってきた。 ● 仮基線場 日程の都合で、どうしても外業を行なう必要があるとの事、まだ雨がばらついてはいるが、河 川敷に設置した仮基線場で尺の検定を強行する事になった。 この仮基線場は新居浜地区の会員さん達が高松の国土地理院の基線場で検定を行い、そ の検定テープを持ち帰って自分達で作製したものが一つ、測量機器メーカーの協力で0.2ミリ まで保証されている光波測距儀を使用して作成したもの2つの計3本だそうである。 早速、小雨の降る河川敷に出て、尺の検定を行う事になった。 50メートルテープを外側の金具から外し、しばらく外気にさらした後、前端、後端そして中間 に手簿者に分かれ検定をおこなう。ポールマンが持ったポールに麻ひもとなす環で結ばれた 張力計をみながら10kgの張力でテープを引っ張る。試しに10キロの張力で引っ張ってみる と、以外に力をこめて引っ張らなけれぱ10キロに達しない、どうやら日頃我々が使用している 張力は5キロ未満のようである。 ポールマンがテープを麻ひもとなす環でつなぎ引っ張っているが、10キロの張力でポールが 引っ張られてしまい、なかなか読定者が読んでいる位置とテープの目盛りの状態が都合良くな らない。ポールの地面との接地部分を足で固定することにより、やっと都合の良い状態にな る。ルーペで鋲に切られた十字とテープの目盛りを一生懸命覗きこむ、ルーペにはたしかに拡 大して写ってはいるが、本当にこれで0.1ミリの単位が読定出来るのだろうか。何でも人間の 目が識別出来る力は25センチ離れた位置から0.1ミリが限度らしい。まさに限界に挑戦であ る。視力にはあまり自信が無い上に、そろそろ老眼を心配する年齢になろうとしており、本当に 出来るのかどうか益々心配になってくる。 ● 読み方 最初に粗読でセンチ単位で読定を行う。そして次からはいよいよミリ単位で読定を行い、0. 1ミリ単位まで読定を行わなければならない。 粗読でまずミリで読定し、2回目からは0.1ミリの読定になる。 ● 粗 読 なるほど、後端で0m00cm5mmあれば粗読の際に0.5と読定し、手簿者が復唱したのを 確認の後10センチメートル単位の値をメートル単位で0m00と読み上げる。 前端の読定者は50メートルの近辺の値となっているはずである。かりに49m98cm3mmで あれば83と読定し、同じく手簿者が復唱するのを待って49m90cmと読み上げる。 そして、本読定に入ったら、今度はミリメートル単位で0.1mmまで心眼で読めという事であ る。今度は0m01cm3mm5であれば、先程粗読で0m00と読定しているから、mm単位で 読み上げなければならない。「13.5」と読み上げる。同様に反対の読定者は49m98cm4m m2と読定したならば、「84.2」と読み上げる。 中央の手簿者は49m98cm4mm2から0m01cm3mm5をすばやく差し引きして、その値 49m97cm0mm7を即座に計算し、この値の較差が5回連続で0.3mmの中に入っているか どうかの判断を行わないといけないそうである。 じっと、その説明を聞きながらルーペの中のテープの目盛りを観ているとなんとか出来そうな 気もしてきた。 ![]() ● 本 番 いよいよ、本番。後端、前端、ポールマン、手簿者の役割を順次交代でやっていきついに、 私の順番が来てしまった。まずは後端の読定を受け持つ。 雨の中、ぬかるんだ地面に段ボールの切れ端を敷き、膝まづいてルーペの中を一生懸命覗 きこみテープを指で軽く押さえ、鋲の十字の位置と見易い様に揃えて読定を開始。 事前に説明を受けていたのだが、なかなか思うように測定出来ない。頭では理解していたつ もりの読定方法についても、日頃使用していないミリメートル単位での読定とあって、センチとミ リの単位が頭の中で混乱してしまう。2cm1mm5の読定についても、読み上げするのは 20.15? 1.5? 2.15? それとも21.5 簡単な事が当事者になってみると頭の中が混 乱してしまい、パニックに陥る。 後端のポールマンが「この程度でいいですか。」と声を掛けてくる。テープの目盛りは4cmを 越える位置で鋲の十字と一致している。「いいんじゃない。」「それじゃあはじめていいですね。」 そんなやりとりの後、「準備よし」の合図でなんとか最初の読定を開始する。読定「42.5」3、4 回4cm台で読定を続けていると、怒鳴り声が飛んで来た。「後端がそんな大きな値ではじめる と、前端の値が50mを越えたり、入ったりして計算が面倒になるでしょう、もっと0に近い値で はじめなさい。」とお叱りがある。こんな状態の中で連続5回の測定の較差が0.3ミリの制限に 入らなければならない。前途多難である。 不思議な事に連続3回までは較差0.3ミリに入るが4、5回目に較差の制限を越えてしまう。 しかも自分一人で測定する訳でもなく、全員の息が合わなくてはならない。10回、15回たちま ち20回を過ぎてしまう。さらに怒鳴り声が飛ぶ。「さっきから読定の値が変わっていない、カン ニングだ。ポールマンは少し引っ張って値を変えるようにしなさい」。たちまち、較差がオーバー してしまう。20回も過ぎようとしたころ、雨が上がり太陽が顔を出した。9月とはいえ、まだ残暑 厳しい頃、どんどん気温もあがり、照り返しもきつくなる。温度があがるとテープの測定にも影 響が出てくる。ルーペの中の目盛りから目を離すともう目盛りがうまく読めない。緊張からじっと 視線を外さずにいると、今度は目が霞んでくる。まさに泣きっ面に蜂。ええい、やけくそと読定 を繰り返す。 早く、何とかなってくれ、もう降参と泣きを入れようかと思った途端。「読定者交代」の声がか かる。やれやれ、やっと半分が終わった。雨が染み込んだ作業服も気持ち悪いが、気分的に 完全に落ち込んでしまった。それでも気を取り直し、駆け足で前端にむかい、読定を始める、 今度は何とか慣れたおかげか10回程度で終了した。「やれ、やれ」 後は、計算をするだけである。本当に身を持って厳しさを知ってしまった。勉強にはなった が、もう懲り懲りである。 ● 作るぞ 新居浜の仮基線場でやっと自分の勤めを果たした私にとって、もう基線場で尺の検定の実 技なんかはしたくない。しかし、基線場については我々の業務での基本になる測量機器のチェ ックという意味からは必要性を感じていた。更に2級基準点測量の実務研修を行う事になり、 にわかに仮基線場を作ると言う話が現実味を帯びてきた。 測量機器メーカーに交渉し、何とか機械を借りる事には成功。 現場を早く作らなければ。どこに作るか。この問題は非常に難しい。50m以上の直線が取 れて、傾斜がほとんど無い場所、すぐに思いつくのは、河川敷。そして公園である。だが、これ らは総て官地であり、使用に際しては申請が必要であり、なかなか容易には許可してくれな い。たとえ担当者が了解してくれたとしても、後で公園法とかの関係がでて設置をする事が出 来なくなる。お決まりのお役所仕事が障害になる。「基線場を作ったら、お役所も使用出来る し、測量会社に確認しなさいと言えるでしょう」と説得しても、「うちはそこまで必要ないから」とま るで話に乗ってこない。 あげくに、「保証は出来ないけれど、申請だけしますか。」と恩着せがましく、申請書を出せと いう。こちらは費用を負担してくれと要求している訳ではなく、当方の負担で作成し、そのまま 施設を寄付します。と言っているのだが、どうもお役所にとったら訳の分からないものを勝手に 造って後の維持管理をさせる、いらぬ仕事が増える。ありがた迷惑なものらしい。 新居浜の調査士達も、その点では苦労されたらしいが、「先に施設を作ってから、申請書を 出そう、やった者の勝ち」と強引にやってしまったらしい。 そこで、はたと思い付いた場所があった。地元の高校には農業工学科がある。当然測量実 習がある。「これは話になるぞ」と早速、高校に交渉に行く。事務長に相談すると二つ返事で了 解があり、現在不在の校長に確認してすぐ正式に返事すると言う事であった。翌日、正式に了 解の返事が私の事務所に入る。 思わぬ展開に当方としても「早速、取り掛からなければ」と元気が出てくる。 ● どうしょうか 「さて、どうしょうかいな。コンクリート杭は、鋲は、保護用の設備は。」 コンクリート杭は今回、2級基準点作製のため、特注していたコンクリート杭を援用する事とし た。15cm角の長さ50cmの杭の中央に直径3cm、深さ10cm程度の穴を開けたものを使用 する事とした。その穴の中にステンレス鋲に十字を薄く切ったものを設置する事とした。 前回、新居浜で基線場を作製された担当者に聞くとステンレス釘の頭を布やすりで丹念に磨 き、ケガキ針で「えいやっ」と十字の線を入れたそうである。軽く線を引くとそれこそ薄い線にな り見えない。思い切って線を引くと、曲がった線になる。その力の入れ具合が難しかったそう だ。 今回はステンレスの鋲については愛媛会が使用しているものの頭をやすりで削り、頭の十字 が薄くなるまで削れば充分であると安直に考えた。ゴリゴリとやすりで頭を削り、十字の溝が僅 かに残る程度で布やすりで磨き、一丁上がりと6本程の鋲を作成し、そのうちの出来の良いも のを4本選ぶ事とし、次の手順に移っていった。 ● 会所桝 保護用の設備として、会所桝を使用する事とした。早速、近くのコンクリート製品の製造工場 に出向き、会所桝を購入に行く。 40cmの蓋付き会所桝を4個購入し、自家用車に積み込む。自家用車のタイヤがきしんでい るのが良くわかる。カーブを注意深く運転しないと、横に振られてしまう。なんとか運転し、現場 の高校に到着。担当の先生に許可をもらい、隅の方に置かしてもらう。先生に「この会所桝の 底を割って使用します」と言うと、「うちがいつも買っている工場の製品は底がついていない よ。」「えっ、その工場どこですか。」「あなたが買われた工場の隣りの工場ですよ。」。よく、調 査していないとこのような事になる。「閲覧不足。補正あり」ぶつくさ言いながら、トンカチで、底 をたたき割る。 今度は、会所桝の蓋を支える部分について、中に設置する杭の頭と蓋の関係から、テープ の入る方向と出る方向の二方向について巾10cm、深さ5cm程度の部分をカッターで切り取 った。やはり専門家がやるように上手にはいかない。元来私は不器用の塊である。切り取った 部分も四角形に切り取れず、台形になっている。まあ、これも愛敬、これ以上の手間はかけな い。 大体、テープで計測して50m離れた位置に小型のユンボで縦、横、そして深さ50cm程度の 穴を掘ってもらっていた。更にその位置から手堀りで20cm程掘っていく。穴の底にセメントを 打ち、素ぼり用の基礎ブロックを入れ、その基礎ブロックの16cm角の穴の中にコンクリート 杭を入れ、コンクリート杭の頭が水平になっているか確認した後、コンクリート杭と基礎ブロック の隙間にもセメントで補強する。 そして、これらが固まった後、土砂を10cm程戻し、よく固めた後、外側を保護するように会 所桝を設置、そしてコンクリート杭と会所桝の間には砂を詰め込んだ、当然穴と会所桝の間に は土砂を埋め戻し、よく固めて動かないよう固定する。 このようにして、コンクリート杭が地面と高さが同一になるよう調節し、丁度会所桝の蓋の高 さの部分だけが、地面より上に出るように設置した。高校の先生からは後で車が通っても大丈 夫なように、地面より出た部分についてはセメントで少しすりつけるようにするとの返事を得 た。 ● 49m995 コンクリート杭の設置にあたっては、私の光波測距儀を使用し、水平距離で中央の穴の中心 同士が丁度50mになるように設置した。これは、先の新居浜の責任者に尋ねると、基線場の 長さは50mに少し欠けるように作成すればよいとのアドバイスから、まず50m丁度を出し、後 の鋲の設置の時に調節すれば良いと考えたものである。 しかしながら、長さの比較の基準となる基線場を作成するのに、私の光波測距儀で距離を予 め決めておくのだから不思議なような気がする。 同時に、もしも1cmも2cmも狂っていたら、私の光波測距儀は・・・・。今やっている分筆は大 丈夫なのだろうか。心配。 会所桝、コンクリート杭の設置が終わり1週間がたち、しっかり固定出来た頃、今度は、一番 肝心な鋲をコンクリート杭の中央の穴に設置することとなる。 まず、一方の鋲をコンクリート杭の中央にモルタルで固定、次にその鋲の中心の位置に光波 測距儀を据えて、この位置から49m995を目安にして、もう一方の鋲の位置を決定し、設置、 固定した。更に、その後方約10m程度にまっすぐ延長した位置に、距離測定用の器械点にな る鋲を設置する。 これで、何とか準備が出来た、後は当日を待つだけである。 ![]() ● 十字は大きかった そして、当日、測量機械メーカーの担当者は時間より前にやって来られた。早速現場の高校 に向かっていただく。私が準備の都合で、会場の高校に、ちょつと遅れて行くと、いきなり「十字 が大きすぎるよ。真ん中が解らん」「えっ」「ルーペで見ると、やっぱり太すぎて、判断がむずか しいよ、ケガキ針でやらなければ駄目ですよ。」。恐れていたことが起こってしまった。今更、コ ンクリート杭を抜きなおす訳にもいかず「もう、我慢して。」笑ってごまかすしかない。またこけて しまった。 (後で新居浜の担当者と話たのだが、やっぱり「餅は餅屋」と言う事に落ち着いた。新居浜の 担当者も釘については20本以上ケガキ針で線を引き、その中で一番出来の良いものを使用 したらしい。鉄工所か工業高校にでもお願いしたほうが、確実で良いものが出来るとお互い実 感する。) しかし、測量機器メーカーのミラーも色々と開発されており、厚みの無いミラーを直接、鋲の 十字の位置に置き距離を測定していた。前回はターゲット板にシール式のミラーを使用してい た事を思うと、感心するのみ。我々が要求しようと思う事は、それより以前に開発にとりかかっ ている。 ● 10秒ほど 早速、距離の測定が始まった、全員ものめずらしさも手伝って、じっくり観ている。私は、うま く作れているか気になって仕方が無い。 「鋲は直線になっていますか。」「いえ、ちょっと。」「だいぶずれていますか。」「10秒ほど。」 「すいません。」大分控え目に指摘していただいたようである。 おそらく雑な人間だなと思われてしまったに違いない。 それでも、無事観測は終了した。2本作成した基線場の水平距離は49m996と49m995 であった。どうやら私の光波測距儀は使用に耐えれる状態のようである。 ●最後のミス さて、新設の仮基線場での比較検定が始まった。しかし、検定用のテープを取り出すと、まず 指摘がある。後々の利用から考えて、鋼巻尺のコーテングがしてあるものを購入したのだが、 どうもそれがまずかったらしい、コーテングのせいで、目盛りを刻んでいる線が太すぎる、これ では0.1mmの判断が出来ないという注文があった。 更に、実際に比較検定をしていると、ポールマンが一生懸命ポールを引っ張り、読定目盛り を変えようとしているにもかかわらず、位置が変わらない、どうも会所桝の外側が丁度テープ の金具の位置と一致してしまい、金具が引っ掛かってしまった。これについては、で問題のガタ に引っ掛からないように手簿はさみをテープとの間に入れる機転のおかげで、なんとか無事検 定を終了する事が出来た。 これから、自分で基線場を作ろうとされる方はすくなくても私よりは緻密な方だから以上のよ うなミスは起きないと思います。
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