境界確認立ち会い劇シナリオもどき



●はじめに

 今回、平成5年度、6年度に引き続き第3回目の愛媛県土地家屋調査士会による平成8年度
新入会員研修が実施される事になった。

前回の平成6年度の際に実施した『擬似境界確認』の寸劇を今回も行う事となったようである。

前回は最初の企画であり、担当者と演技者がその内容、およびその主旨についても良く承知
しており、現地の状況設定のみを行い、あらすじ等すべてを即興で演じ、土地家屋調査士役の
新入会員の対応に合わせ、依頼人、隣接地所有者に扮した講師が、臨機応変に自分自身の
経験からの対応を行う事で臨場感を出した。

しかし、その前回においても劇の主旨があまり理解出来なかった役員においては、劇の進行
を円滑にするため、細かいすじだてを記載した台本を要求された。

今回は、その当時の企画者も演技者となった講師も、更にそれを鑑賞した新入会員だった方
もほとんど参加されていないとの事。

今回の企画の担当者は、前回と相違する型で独自の方向性を考慮されており、このような原
稿を提出する事は非常に制約となり、申し訳無く思います。

ただ単純に平成6年当時の寸劇の主旨と、その時の状況を伝える原稿であり、たたき台のな
いものからは具体的な構想の発展は無いと思って提出する次第につき、ご勘弁いただきた
い。

更に良い擬似体験劇が出来る事を願う事から、この原稿については、どのように変更、改正さ
れる事もあらかじめ了承しておりますので、ご活用願えれば幸いです。




● 現地状況の設定

 土地家屋調査士丙は 甲より土地境界の確定測量を依頼され、隣接する土地の境界につい
ては乙所有地のみであり、法務局および官庁から

@公図地区については公図および既提出の地積測量図、畝順帳等の資料、

A 法17条地区については、既提出地積測量図および法17条地図等の資料

 (注:資料収集についても地域性により、各種の資料があると思われ追加しての話は可能)


 をそれぞれに収集し、現地において事前調査・測量を行い、復元を行ったところ現地に位置
するコンクリート杭については相違する事が判明した。


 依頼者甲は10年程前に、この土地を購入し移り住んできたものであり、あまり土地境界につ
いては解っていないがコンクリート杭については土地境界だとは認識していない。前土地所有
者から「この辺りだ」という風に聞いており、コンクリート杭は少し入り込んでいると思っている。








● 立ち会い者

依頼地所有者 甲     講師

隣接地所有者 乙     講師

土地家屋調査士  丙   新入会員

      以上3名の出演者とする。

 おのおのの役割について、会場内の新入会員に明確にするため、服装の変化、胸に役名の
入った大きな名札を表示する。


道路管理者、河川管理者等の官公署職員、土地改良区の役員等については立ち会い状況が
煩雑になるため今回は設定せず、単純に甲、乙の二名のみの境界の問題とする。


依頼地所有者、隣接地所有者については経験豊富な調査士(講師)が、その設定の状況下
で、その役になりきり臨機応変に対処する。

調査士役には新入会員を充て、臨機応変にその変化に対応し、なおかつ品位ある調査士とし
ての業務遂行を目指すものである。




● 目的

 冷静かつ、中立の立場にたちいかに公平な業務を行うかを考えることを目的とする。

 決して円満解決にならずとも、適正な業務の遂行により話し合いが不調に終わっても、その
事については不可としない。

 逆にこの場合は全員で対応する方法を考える事の出来る好材料とする事が出来る。




● 進め方

 現地の設定については固定、配役のみを変更すれば良い。

1回あたりの時間を約15分から20分程度とし、調査士役の新入会員を変更すれば、3回程
度で充分と思われる。ただし、会場の新入会員の調査士役は先に決定し、あらかじめ指定して
おいた方が進行が早い。

 また、立ち会いの状況の話し合いにむやみに時間がかかり、話しに進展のないものについて
は、司会者の判断にて打ち切り、その問題点を講師が解説、もしくは会場の新入会員に投げ
かけても良い。良い、悪いに関係なく新入会員にとって非常に参考になる事例であれば、たと
え1回だけになっても良い。

 依頼者、隣接者役の講師については、難解な人物を演じるのではなく、ある程度のところで
決着をつける気でその役を演じなければ、話しは進展しない。ただ、ある程度までは気難しい
役を演じる必要があり、その程度については自分自身の経験により演じる事とする。




● ポイント


@立ち会い事の挨拶

調査士は依頼者、隣接土地所有者への挨拶から必ず始める。

依頼者へは「こんにちは。」「おはようございます。」程度の挨拶で良い。

隣接地所有者へは「お忙しいところ申し訳ありません。甲さんから〇〇の仕事を依頼されまし
た調査士の丙です。よろしくお願いいたします。」との挨拶から始まるのが妥当であろう。


A現況の事情説明

「実は、依頼人の甲さんからご依頼をいただいて、こちらで登記所等で調査させていただいた
ところ、私が木杭を打った位置になるようなのですが。」

 といった風に現地のコンクリート杭と復元した木杭についての相違を説明する。


B立ち会い者からの事情の聞き取り

「このコンクリート杭については何時頃立てられたものなのでしょうか。甲さんはご存知なので
すか。」

「杭を入れられた時は立ち会いがあったのでしょうか。」

 コンクリート杭設置当時の事情を聞き取り調査するとともに、登記所等の調査資料からの比
較を行い。的確な判断を行いながら正しいと思われる位置の許容範囲内での合意境界を探
す。


C交渉

 以上から、甲・乙の話し合いを行わせる。


D中立の立場からのアドバイス

 直接、交渉に介入出来ないが、ある程度のガイドラインに沿わせながら交渉の方向を手助け
する。


E登記の方法等について

 交渉がまとまれば、その結果に沿う形の登記の方法について説明し、その方法を双方に納
得させる。


F交渉成立、境界確定後の処理

 境界位置が確定すれば、その境界に新設不動標識を設置し、後日のために立ち会いの証
拠となる文書・写真等の証拠書類を作成する。


G解散事のお礼の挨拶

全部の終了後、お礼の挨拶および後日の書類への印鑑押印等についての説明を行い別れ
る。




● 注意点

既提出地積測量図についての提出の時期。

法17条地区の時期。地図の精度区分は。数値測量か平板か。

許容誤差の性質、理解そして依頼人達への説明。

後々問題とならないように、公平になおかつ納得があるか。

調査士のみの責任とされないように証拠書類の整備ができるか。

調査士誘導型になり、後日調査士にだまされた等という結果になっていないか。

  以上を観察し、司会者はコメントを行い、また会場に問い掛けても良い。




● 事例

待ち合わせ時間の約10分前。現場には依頼者甲と土地家屋調査士丙が既に、隣接地所有
者乙を待ちながら話しをしている。


調査士 「甲さん、本日の立ち会いよろしくお願いします。境界については、立ち会いの時はあ
まり良い気持ではありませんが、土地の境界は後々まで尾を引きますので、今回明確にしてお
きましょう。」

依頼者甲 「そうですね。次の代にまでもめるのは嫌ですし。はっきりしたいです。でも私は境
界の事について、あまり知らないですけれど、大丈夫でしょうか」

調査士 「それは、大丈夫だと思います、こちらで登記所や官庁を調べましたら、ある程度の
資料がありましたので、それにそった形でお話して見て下さい。」


 丁度、約束の時間になり、隣接地所有者乙がやってくる。


調査士 「乙さん、今日は忙しいところ、わざわざすいません。」

乙   「忙しいから、簡単にしてよ。境界ははっきりしとるけん問題ないでしょう。このコンクリ
    ート杭よ、間違いないよ。」

調査士 「はい。このコンクリート杭は、乙さんが入れられたんですか。」

乙   「そうよ。」

調査士 「何時頃、入れられたんでしょうか。」

乙   「ええっと、あれは10年程前じゃったろうかな。」

調査士 「そうすると、甲さんはその事はご存知ないんですか。」

甲   「ええっ、私は前の所有者から購入した際に、あの横に木があるでしょう、あの木と横
    のブロック塀を結んだ線だと聞いておりましたんで少し食い込んだ位置にあるなぁと思っ
    ていたんです。私はお隣さんともめるのもいやだし、違っているという自信もなかったん
    で、何か今度ある時に専門家にお願いすれば、はっきりするだろうと思っていたんで
    す。」

調査士 「それでは、双方が確認されて打たれた杭ではないんですね。解りました。一応、こち
    らに打つてある木杭が、私の方で登記所で収集いたしました地積測量図から復元した
    位置なんです。」

乙   「大分違うとるなぁ。わしは間違いない場所にコンクリート杭をいれたんで。疑うんか
    な。」

調査士 「いえ。乙さんがわざと違った位置にコンクリート杭を入れられたとは思っておりませ
    ん。」

乙   「そしたら、これはどうしてぞ。」

調査士 「乙さん、以前この土地に住宅を建築される際に分筆されたと思うんですが、覚えてい
    らっしゃいますか。」

乙   「ああっ、覚えとるよ。確かA先生に全部お願いして、やってもらったよ。」

     (注:国土調査地区であれば、国土調査の時期になる。)


調査士 「昭和45年ですね。」

乙   「息子が高校を出た年やったから、そうやな。」

調査士 「その時の分筆の図面が法務局に残っておりまして、その図面を元に乙さんの反対
    側の境界から測らせていただいたら、この木杭の位置になるんですが。」

     (注:国土調査地区は国土調査時の境界の復元を、当時測ったと思われる図根多角
     点から行った。)


甲   「大体、前の所有者から聞いた場所くらいじゃないんかな。」

乙   「そんな事はないて。面積はちゃんとあろうがな。」

調査士 「事前にはからせていただいた面積では、甲、乙さん両方とも、木杭の位置でしたら
     登記簿の面積との比較では3パーセント程度の増加ですね。」

乙   「コンクリート杭のとこだったら、どうなるんぞな。」

調査士 「乙さんで5パーセント、甲さんでは少し無いですね。」

乙   「そうかな。だけど間違いないと思うがなぁ。」

甲   「私は登記簿の面積はほしいです。」

乙   「調査士さん、このままではいけんのかな。」

調査士 「うーん。いかんという事はありませんが、乙さんこのコンクリート杭は何か根拠があっ
     て入れられたんですか。」

乙   「根拠いうても、昔ここに境木があって、そこにコンクリート杭を入れたんよ。大体やけ
    どそんなに狂うとらんよ。」

甲   「私は、前の所有者が言っていた位置とは少し違っているように思えるんだけど。出来
    れば調査士さん復元された木杭の位置にしてもらうのが、一番いいのかな。それだと面
    積も丁度公平な増加なんでしょう。」

乙   「いやいや、そんなとこじゃないぜ、これは自信をもって言える。調査士さん、本当にA
    先生は木杭のとこで測っとるんかな。」

調査士 「昭和45年当時で平板で測っていますから、5センチ程度の誤差はあるかもしれませ
     んが、私が復元したら、この位置でした。」


  (注:新入会員の調査士としての力量により、境界位置の位置誤差、辺長の誤差等公差に
  ついて、乙から、どのくらいの誤差なら良いのかという風に調査士役に振って詳しく話しても
  良い。)


乙   「わしも土地をとったといわれるのは嫌じゃけん。隣の甲さんの面積が取れるようにす
    ればどの程度になるの。」

調査士 「そうですね。延長が20m程ありますから、形状によってちがいますが、大体北側が
    5センチ、南側が16センチ程コンクリート杭から移動した位置にすれば面積はとれます
    ね。」

乙   「そうかな。そのくらいなんかな。土地をとったなんて言われるのは嫌だけど、大分うち
    の方に入るな。絶対わしはとりこんどらんのじゃけん。甲さんとこは本当に面積がないん
    かな。それでうちの方が面積が大分あるんかな。おかしいな。調査士さんよ。こんな時 
    は大体どうするんぞな。」

調査士 「いろいろあるんですが。この場合はやはり御話し合いで納得さえされればその位置
     で良いと思いますけれど、真ん中をとる事例なんかは多いようですけれど。やはり、こ
     れはどうしてもお互い納得されての事ですね。」

乙   「真ん中かな。そりゃ大分違うぜ。絶対わしは土地なんかとっちゃおらんけど、隣の人と
     もめるのがいやだからおれよるんで。甲さんはどこまでいるんぞな。」

甲   「調査士さん、私は後から来たから、登記簿の面積があればいいんだけど、乙さんとこ
     ろも面積が増加しているし、他の人に聞いても、今測ったら少し増えるのは常識じゃ言
     うことだから、同じじゃなくてもいいから少し余分めにあったらいいです。もうこれではっ
     きりした物を入れてもらってすっきりしたいです。」

調査士 「そうですか。それじゃあ、北の15センチ幅ある部分は、コンクリート杭から5センチ、
     南の59センチの部分はコンクリート杭から20センチ乙さんよりに境界を決めればどう
     でしょうか。」

甲   「私は、そうしてもらえばありがたいですね。」

乙   「うーんっ。まぁ仕方ないわいな、これ以上もめとうもない。だけど土地の格好からいう
    たら北の部分はそのままにしてもろうて、南の方を25センチうちよりにする訳にはいか
    んのかな。」

調査士 「登記の方からいったら、どちらでも問題ありませんよ。甲さんどうですか。」

甲   「私は、それでもいいですよ。」

乙   「これだったら、土地の格好も悪くならないから仕方ないか。」

調査士 「実際にどうなるか、ちょっとテープを張ってみましょうね。」



   調査士、甲、乙と共に南北の話し合いのついた位置でテープを張ってみる。



調査士 「こうなりますが、よろしいですか。」

甲・乙 「ええで。」

調査士 「それでは、確定した境界に新しい杭を入れさせてもらっていいですか。」

甲・乙 「はい。」



  調査士、不動標識(杭)を確定した境界位置に埋設。



調査士 「それでは、杭が入りましたので、取り敢えず御二人とも杭と一緒に写真に入っていた
     だけませんか。」

乙   「えっ、写真もとるの。今日はええ格好しとるけん、かまんで。」

調査士 「いえ、いえ。折角来ていただいて、やっと決まった境界ですから、証拠として甲さんと
    一緒に写真に写って下さい。代替わりなんかしたら、また、勝手に決めたという事になっ
    てもいけませんし、お互いに安心だと思いますんで、どうぞご一緒に。」

乙   「そうかな、ええ格好しとるんじゃけど、仕方ないのう。」



 新設の境界標識を入れ、境界を示す形で、甲、乙が境界明示ポールを持ち、調査士は立ち
会いの証拠のため写真をとる。



調査士 「それと、折角決めた境界ですから、後お互いもめる事のないように、文書を取り交わ
     したいと思いますが、後でお伺いしますので、その書類に印鑑を押していただけますで
     しょうか。」

甲   「そうしてもらったら、安心ですね。」

乙   「おっちゃ、面倒くさいなぁ、前にAさんにやってもらった時はそんなのなかったぜ。」

調査士 「後々の安心のためですから。代替わりなんかしたらわからなくなりますので。お願い
     します。」

乙   「仕方ないな。つこうわい。それでさっきの写真はくれるんかな。」

調査士 「はい、ご希望でしたら、この書類の中に一緒にしておいてもいいですよ。」

乙   「そうか、わしは今日の測量代ははらわんぜ。かまんのやろ。」

甲   「これは、私が頼んだんだから私が払います。」

調査士 「それでは、これでよろしいですね。以前の杭は除けます。乙さんよろしいですか。」

乙   「かまんで。」

調査士 「以上で、全部完了いたしました。どうも御忙しいところありがとうございました。」



  甲・乙・丙とも現場を立ち去る。




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