条件の交差によるズレの解消法

(ご存知でしょうが 3)

●基準点と境界点の条件交差ズレの排除

位置誤差にみえてしまう原因の大部分は,単純に境界点読み取り座標をTKY2JGDでパラメーター変換した座標値と世界測地系での電子基準点を使用した基準点からの座標値を単純比較してしまっていることが原因なのです。ズレの起きた原因を頭の中で整理して,その対策を考える必要があります。

この条件交差ズレを排除してはじめて,国土調査施行令別表第5に表示してある「境界点を観測した与点からの誤差」を考察する必要があるのです。ズレ対策として何をすべきなのでしょうか。

   以下,実例で説明することとします。現地付近一体は山の斜面を利用したミカン畑で,段々畑のようになっており境界については石積で区画されているようですが,ミカンの枝や葉っぱが邪魔をして視通はあまり良くありません。依頼地については,山の緩やかな傾斜がついていることが解る程度で,野菜を作っています。

当然のように図根多角点は亡失していますが,世界測地系で電子基準点を使用して設置していた2級基準点があります。今回は,そのうちの3点を使用して,3級基準点を(図1)基準点網図概略図で示すように,平地部分から山頂に向かって蛇行しながら登る農道沿いに設置しました。



3級基準点3-134のあたりは平地部分で隣接には住宅のあるような場所です。3-135,3-136を結ぶ道路から西側は急斜面のミカン畑になります。依頼地を観測するために,4級基準点を設置しなければなりませんが,最初の計画では依頼地西側を通り,ミカン畑の中を南北に走る里道に沿って基準点の路線としたかったのですが,里道は小さな曲がりが多いので,ミカンの枝や葉に視通を邪魔され,4級基準点の辺長として満足できるような距離がとれません。そのため,3-134から出発して4-1,4-2は町施設内にある3メートル幅道路のコンクリート擁壁部分を利用して設置しました。そこから依頼地を観測出来るように里道の中に4-3を,更に3-136に結ぶような単路線としました。4級基準点の各辺長が35〜40メートル程度と若干短めにはなりましたが,4級基準点の測量結果は,水平網が2.24秒,高低網が19.88秒となりました。高低網にやや不安が残りましたが現地の状況もあり,それなりの精度と思われます。

依頼人の所有している土地は(図1)にあるように3級基準点3-134の近傍の土地と,4級基準点4-3の位置の東側にある依頼地と西側にある土地でした。そこで,4級基準点4-2,4-3を使用して依頼地を観測しました。

●現況図




本来は現況測量,境界立会等,時間的なことで順序が逆になることや,立会人の主張により何回も同じことの繰り返しもあり,境界が不明なものは現地で復元をする必要があります。今から説明する方法で境界を復元した後立会をしたりしますが,今回はズレの説明が主体ですので,既に,境界は確定したものとして説明します。そのため矛盾の生じる個所がありますので予めご了承ください。

(図2)のように西側に里道,北側に水路があります。北側の水路については法14条第1項地図や公図には存在せず,土地利用者が水はけを良くするために設置しており,水路の真ん中が境界であるようです。また,西側の里道は,石積みが残っていましたが,依頼地と水路が交叉する北側部分からは明確でない状態でした。しかし,これを法14条第1項地図から日本測地系で読み取りをして,その座標値をTKY2JGDでのパラメーター変換をして得た座標値(または,法14条第1項地図に記載の世界測地系での座標値を読み取ったもの)と単純に比較してみたところ(図3)のようになりました。

同一の境界点を示すと思われる読み取り値U7と実測した座標値K31の座標の閉合差は1.059メートルほどあります。外の主だった境界点U4とK45は1.180メートルU9とK35は1.146メートル,U8とK33は1.002メートル,そしてU10とK36は1.555メートルと座標値の差も大きいようです。

この地区は乙2の地図の精度で,平均二乗誤差は0.500メートル,公差誤差は1.500メートルです。このまま地図訂正が必要なのでしょうか。

ほらみろ,基準点を使用して公共座標なんて偉そうに言っているけれど,任意座標で観測した結果よりも悪いじゃないか。もっとうまく登記をしなさい。と一昔前ならお叱りを受けていましたが,このまま処理をしてよいものでしょうか。



●座標値による単純比較

任意座標であれば,このように境界点の位置を示す座標値がズレていることは関係なく,一筆地の形状さえ法14条第1項地図の形状と相似形であれば問題なく登記できていました。 図根多角点が亡失したために,新たに基準点まで設置して公共座標で測量したのに,一筆地の形状は法第14条第1項地図の形状と相似形であるが,境界点の座標値が相違するので,やむなく公共座標の上位の数値を省略して任意座標として表示すれば,一筆地の相似形に間違いがなくて地図訂正をする必要のない事案だから,そのように対応した。新たに基準点まで設置したのに,自分の測量成果に対する根拠とも言える基準点の成果まで否定してしまって良いのでしょうか。下記の(表1)は今回の電子基準点を使用して新たに世界測地系で観測した3級基準点3-134から,日本測地系での3級基準点3-17を改めて観測したものです。その座標値に注目してください。

(表 1)3級基準点座標値の比較

区分

基準点の処理方法

点 名

比較

X座標

Y座標

@

日本測地系での観測・計算

四等三角点を与点として使用

3級基準点3−17

36078.326

−94228.002

A

@をTKY2JGDで変換

TK変換3−17

36457.635

−94468.514

@−A

−379.309

240.512

B

世界測地系での観測・計算

電子基準点を直接利用

電子3−17

36457.559

−94468.506

A−B

0.076

−0.008

ここでわかるように,日本測地系での3級基準点3-17と電子基準点を利用した座標値についても,座標の閉合差が0.076メートルあり,変換による相違が生じています。

TKY2JGDでのパラメーター変換によるズレと実際に電子基準点から観測したものの差については,今回実際に比較することができました。そしてこのズレは当然,依頼地の境界点の座標値に対しても同様にズレが生じていることになります。

しかし,このズレは(表1)のとおり10センチ以内のことです。現実は1メートル以上ずれていますので,原因はこれだけではないようです。

地籍調査時代の図根多角点の座標値と,その図根多角点から境界点を測った座標値(法14条第1項地図からの境界点読み取り座標)との組み合わせを,電子基準点から設置された新設基準点と,その新設基準点から境界点を観測した座標値を,同一の座標平面でそのまま比較しているものです。

●拡大図から解ること

ここで(図3)を拡大し,(図4)のように,必要なものだけを記載して解り易く表示しました。

地図からの読み取り境界点の頭文字にU,新設基準点からの境界点の頭文字をKとして表示しています。

灰色の両矢印のマークは方向も,大きさも同一のものにしています。各点で違いはありますが,ほぼ同じ方向に同じような量が共有してズレているものと思われます。



基準点は電子基準点からのものを使用して現実の境界点Kを観測しました。一方,法14条第1項地図からの読み取り座標Uを使用してその座標値を単純比較したものです。このズレの大半の原因について電子基準点からの新設基準点から境界点を観測した座標値を使用しているものと,地籍調査の図根多角点から観測された境界点の座標値を同一平面上で単純比較しているために生じているものです。

これは比較する条件が交差することにより起っているズレなのです。

このズレを排除して,境界点が国土調査施行令別表第5の許容誤差にあるかどうかを確認しなければなりません。この内,日本測地系から世界測地系への変換によるズレの部分は(表1)で大体わかりました。残りは,地籍調査時の図根多角点による境界点座標と,日本測地系での基準点から観測した境界点座標のズレを調べる必要があります。厳密に調査をするならば,新設基準点から図根多角点を観測してその座標値のズレを調査しなければなりません。

●重ね図へ

しかし,地籍調査時代の図根多角点はこの地域では亡失している為,図根多角点を新設の4級基準点から観測して直接そのズレを確認することは出来ません。何らかの方法で確認する必要があります。

そこで,地籍調査の一筆地の境界点については,国土調査施行令別表第5の許容誤差に納まるように作られています。

つまり,図根多角点(座標)からその境界点(座標)については平均二乗誤差の範囲に入るように努力されています。やむを得ない場合でも,その平均二乗誤差の3倍の範囲となる公差の範囲内に入らなければならない。公差の範囲に入らないものは誤りであるとされています。

この地域は実は地図の精度が乙2です。平均二乗誤差0.50メートル,公差1.50メートルという事になります。これは半径が0.50メートルと1.50メートルの円の中に入れば良いという意味になります。

ただ乙2で説明すると,かなりいい加減という印象をもたれそうなので,地図の精度を1つ上の乙1にハードルを上げて説明します。そうすると平均二乗誤差0.25メートル,公差0.75メートル,これは半径が0.25メートルと0.75メートルの円の中に入れば良いという意味になります。

この誤差円の中心はどちらの形状の境界点にすれば良いのでしょうか,ここでは地籍調査(法14条第1項地図)に敬意を表して,地籍調査の境界点の座標値位置を誤差円の中心として比較します

(図4)は(図3)を拡大し,必要部分だけを抜き出し簡略化して,比較がしやすいように各点での灰色の両矢印のマークをすべて同一方向,同一距離のおなじものを表示しています。

両矢印のマークとの比較でも解るように,両矢印のマークに対して各点で距離・方向が細かく相違していますが,各境界点に共通して同じ方向,同じ距離にズレている最大公約数的なものがあることが判ります。

そこで,その共通するズレを移動させます。いずれかを固定し,いずれかを移動する訳ですが,地籍調査成果を移動するのか,基準点成果を移動するのか。正直,どちらを移動しても良いと思われます。

ここでは,地籍調査の成果Uを移動することにしたいと思います。




そこで,地籍調査の形状全体を黒色矢印の距離・方向にCAD上で移動して,自分の視覚で形状が一致する場所をざっと探し当てます。これを第1段階とします。(図5)

ざっととはいっても,公差半径円の範囲には入るように移動してみてください。移動のために便宜的に1点のみを固定してしまう方法は,判断に先入観を持ってしまう為,お薦めすることは出来ません。

(図5)のように,全体が公差半径円の中に納まる程度で移動して下さい。

この第1段階が,基準点と境界点の条件が交差したことによるズレの大部分を修正したものです

難しい計算や理論を,人間の目に入る情報量の膨大さと人間の判断力で簡単に解消する方法なのです。

また,直線上に設置された境界点については,両端だけを境界点として扱う場合や,中間点にも境界点を設置したりする事があります。そのような点に対し,対応する点が必要なのか,不足しているのか,除外しても良いものなのか,その判断も「人間の目」で判断ということになります。

この「人間の目」での判断は一見簡単そうですが,実は専門的知識と判断を必要とする「専門家の判断」なのです。平板測量や任意座標時代の「重ね図」で重大な役割であった「専門家の判断」そのものなのです。ただし,ここまでの処理については根拠を示すことができるようにしておく必要があります。

そのため一筆地の形状を移動する量は,最大でも1〜2メートル前後までと考えて良いと思います。それ以上の移動を必要とする場合は新設基準点の誤りか,本当の地図訂正等を考慮する必要があります。

(正直に申し上げますと,この地域の図根多角点は少し精度が良くないと思われます。)

●専門家の重ね図

第2段階として,地籍調査の境界点を中心とした公差半径円の内側に,平均二乗誤差半径円を追加します。第1段階で一時停止していた位置から注意深く,お互いの全体の形状を比較しながら,今度は平均二乗誤差半径円の中に納まるように,全点が最大公約数的に一致すると思われる位置を探し出していきます。

国土調査施行令別表第5の誤差範囲にあるかどうかを探っていきます。

地籍調査の形状について,縮小や拡大を行ってはいけません。回転も必要ありません。強制的に数点のみを一致させる必要はありません。全部を信用して全部を疑ってください。信頼度はとりあえず全部一緒なのです。一致させてしまった点が本当に正確な位置であれば問題ありませんが,見掛けが強固な構造物で,立会者双方が間違いないといっても,お互いの合意で地籍調査後に設置されたもので,本来の境界位置と若干相違している場合もあります。

信頼の出来る箇所を多数確認し,境界としての信頼度を増すという作業は大事であり,1つのみに固執しないほうが良いでしょう。全点が平均二乗誤差半径円の中に入るなら異なる方向にズレていても,それが一番正しいものであり,一致しているのです。

最終的には固定した側の境界点が移動する側の境界点の円にすべて入り,その円の実際の半径が小さければ小さいほど良く,この1点は絶対誤差がないとして,ことさらに誤差0で固定する必要はありません。全部の境界点が同様の信頼性を持っていると考えれば良いのです。

1点だけが誤差0で他の点が平均二乗誤差半径円をはみ出し,公差半径円にあるものよりも,誤差0のものは無いけれど,全部の点が平均二乗誤差半径円の中にある方が信頼性は高いものと思われます。

絶対に間違いはないと思えるものは,誤差0の位置ではなく平均二乗誤差半径円内にあれば良いのです。しかし,この点だけは公差半径円からはみ出ることはないという判断は持っても良いでしょう。そのような点が複数あれば,半径円内に絶対入らなければならないものを組み合わることにより,境界とするには不都合な点を探し出すことが出来ます。

広い公差半径円を飛び出せば,確定された境界点が間違った確定位置なのか,それとも正しい境界点位置だけれど地籍調査で誤って表示されたものかを判断して,再度の立会いを行うか,地図訂正等を考えれば良いということになります。


それらの判断は専門家が持つ経験則・知識・立会いで知り得たこと・調査資料によるものとなります。

以上から(図6)を最終的な判断としました。全点公差半径円の範囲となりました。K38とK33については残念ながら,平均二乗誤差半径円からはみ出してしまいました。ただK38の点については,水路の中の地点で曲がりのある場所で,境界点の押さえ方により相違の出る場所です。またK33の地点については,境界石が残っている場所であり隣接する境界点K35,K31ともに境界石がありました。平均二乗誤差半径円の範囲内とはなりませんでしたが,公差半径円には余裕を持って入っています。

以上から,この現地で確定された境界点については,問題ないものと思われます。

※(K32,K30,K44については境界点を結ぶ直線上にある境界点として扱いました)

●何故重ね図なのか

あらかじめ現況測量を行っていれば,先ほどから説明しているようなズレの傾向やおおよその境界位置を頭の中で整理することが出来ます。

依頼人や隣接土地所有者の立会時の証言等を有効に活用して,現地の信頼の出来る境界点,信用の出来ない境界点が明確になれば,境界を位置決定する際に迷うことがなくなり,立会人の証言を確認するのにも役に立ちます。

この「重ね図」については,地図や一筆地の境界について,地籍調査で地図を作成する側は,その成果が平均二乗誤差の範囲内とするように一定基準を定め努力しています。その成果を後から確認する立場としては作成された成果を信頼して,その誤差の中に入っているはずだと推定しても良い訳です。

だからこそ,自分に都合の良いように勝手に解釈していると思われてはなりません。この「重ね図」に至る経緯を,客観的に説明できることが専門家としての条件なのです。

そのためには,ズレは正しい物差しで比較されている必要があります。人によってそのズレがバラバラではズレの修正ということにはなりません。独りよがりな測量で,地籍調査時の復元をしても本当はどの程度ズレているのかということさえ解らなくなります。自分の測量によりズレを拡大していることさえあります。

我々の測量は地積測量図に残る測量です。今,我々が他人の地積測量図を見て指摘していることは,後日,必ず指摘されます。それも,測量器械の考えつかないような進歩があっても,その時代の最新の測量から同等程度を要求されることにもなりかねないのです。

だから基準点なのです。公的に一定基準の定めのある測量方法で,最善の努力をしておくべきなのです。そうすれば,後日の対応方法についても,その測量方法に従って対応することが可能になります。

そして,基準点を使用して依頼地を含み,少し広い範囲の現況測量は行っていますか。どの土地家屋調査士も依頼地は当然ですが,他人の所有地内にまで入り込んで測量する訳にはいきませんが,依頼地に隣接する道路・水路構造物,更に隣接地や反対側の明確な構造物まで,後日の為に可能な範囲で現況測量を実施しておく必要があります。

第1段階での「重ね図」の移動については有効です。実はこの事例でも,依頼人の土地が依頼地を含み3筆ありました。依頼地と里道を挟む西側の土地,そして3級基準点3-134の北側にある土地です。里道を挟む土地については,原野の状態で現況測量をするにはかなりの労力を必要としました。3-134の北側の土地は,原野の状態でしたが農道に隣接しており,境界についても石積みで明確な状態でしたので,依頼人にお断りをして大雑把に現況測量をしました。

そして,その現況平面図を作成し,依頼地と同様に法14条第1項地図の境界読み取り座標と(図7)のように単純に比較してみました。

(図7)の里道U201の位置は現地では石積みで明確です。U159の位置も同様です。更にU176〜U179の境界は高い石積みであり,その基礎部分が境界なのは明白です。広い南側の農道・水路位置については拡幅が行われているようで,U167の位置が現況ではコンクリート擁壁となっており,民地との境界になっている模様です。

そのような事から依頼地のように明確に1メートルを超える部分はありませんでしたが,依頼地と同様の方向・距離のズレが0.50メートル以上あることがわかりました。




   100メートル程離れている位置でもほぼ同様のズレが発生しています。

これは,この地域の図根多角点が同様に持っていたズレと思われます。当然のように図根多角点の路線によってもズレが相違し,境界点を観測した個々の図根多角点のズレは一つ一つ相違しています。しかし,同一の図根三角点を使用したことによるもの,同一の路線の図根多角点が共通して持っているズレを確認することが可能であることが,これで判ると思います。

1つの図根多角点から観測したと思われる程度の範囲(依頼地を含め50メートル範囲程度)か,少し離れた位置で境界の明確な位置の現況測量をしておけば,「重ね図」を行う時の客観的な判断材料となります。

境界の復元・確認に使用した基準点や準拠点は,現況平面図とともに後日の境界の維持管理という面でも非常に役に立つことになります。


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