面倒な話 1

(地図と違う)

● 依 頼

それは分筆の依頼から始まった。

私の事務所に訪れて来た、60才前後の白髪まじりの真珠業者さん。

何でも、昔三人の真珠業者さんが集まって、三人共有で九筆の土地を購入したとの事。現在
はその土地を区分してそれぞれに使用しており、利用形態にほぼ一致する形で6区画に分割
して、それぞれ2区画ずつ単独で所有したいとの事であった。

すぐ登記所へ補助者が閲覧に出かけてくれ、調査を行うと、全体で4000uほどの土地であ
り、抵当権は無く、地目も雑種地と宅地であり、雑種地の上には既に倉庫と作業所が建ってお
り、雑種地はすぐに宅地に地目変更が出来る状態との事。

全体を大きな1筆にした後分割すれば手間が無い。

更に隣接する土地についても依頼地以外は全て、水路、町道・県道、海に囲まれ分筆につい
てはほとんど問題がないようだった。

ただ、一部県に道路として買収され所有権移転されているのが気になったが、依頼人の話で
は以前県道であり現在町道となっている道路境界にはコンクリート杭が設置され問題が無いと
の事であり、更に最近分筆のなされた国道昇格予定の県道部分の拡張については、道路の
蓋付きのコンクリート水路の構造物の端で間違いないということであった。




● 取り敢えず現地

いろいろ話を聞き、現地での立ち会いを取り敢えず1週間後とした。

現地は丁度、図根三角点の真下といっても良い位置で、以前この図根三角点と四等三角点を
使用してのトラバース測量を行っていたため、簡単に復元のためのトラバー点は作成出来た
のだが、なにせ4000uの細長い地形の土地である。50m程の間隔で改めて細部の境界を
測るために8点ほどの閉合トラバース測量を実施。取り敢えず、1日がかりで終了。

精度も満足の行く精度であり一安心。

後は混みいった地形でもある事から立ち会いを終了し、境界の指示を受けた後、国土調査と
の比較を行う事にした。

翌日、下準備を終えた安心感もあり、余裕をもって依頼人さんとの立ち会いを行い、「分割に
ついては取り敢えず、雑種地について宅地に地目変更を行い、大きな1筆に合筆を行った後分
割すれば、きれいな状態になり、手間も少なくていいですね。」と依頼人と話しながら、道路境
界、海、水路との境界、そして今回、分割を行う位置の指示を受けペンキづけを行い、これで
すべての準備が完了し、後は観測するだけとなった。

さすが4000uの土地で、海岸に接した、細長い土地だけあって変化点の多い事。

依頼人さんの指示を聞きながら、ペンキづけを行い、境界の明確な場所にはどんどん不動標
識を設置。かなり効率的にやったつもりだったが、半日もかかってしまった。

依頼人さんとの立ち会いを午後からにしていたものだから、夏の日長ではあったが、既に日没
近くなり、翌日測量を行う事になった。

翌日、再度測量を開始。境界点および現況の変化点もどんどん観測を行う、境界点は150
点、参考のための現況の変化点400点という、なんとも屈曲点の多い地形であった。さすがに
観測だけとなると早いが、500点を超える観測になると、データーコレクターを持っておらず、ト
ランシット野帳にせっせと観測結果を書き込むのは中小企業の調査士、いや中年の調査士に
はつらいものがある。やっと二日掛かりで観測を終了。

早く、儲けてデーターコレクターを買いたいものだ、儲けになるいい仕事を探さなければ。




● 手入力

事務所に戻り、少し老眼になりかかった眼をのろいながらトランシット野帳からデータを1個ず
つパソコンに入力、またまた家内工業的中小企業の悲哀を感じる。

それでも500点程度であれば2時間位で何とか入力を完了。後はチェックをして、丁寧に入力
ミスを確認。間違いなく入力をしたつもりではあるが、やはり人間の能力の限界か、5、6個の
入力ミスを発見、修正し全部をCAD上にプロットしてみる。

形からいっても大きな間違いはないようだ、次に国土調査を読み取った形状を同様にCAD上
に追加してみる。

実測データと読み取りデータ、双方とも公共座標といえるものであるから、その重ねあわせは、
同じ座標系だからそれを単純に比較すれば良い。多少のスライドがかかった状態でそんなに
相違もないだろうとたかをくくっていたのだが、重ねあわせた瞬間画面には大変な事がおきて
いた。





● 土地が無い

境界杭や現況の構造物をすべて測量し、大体間違い無いと思っていたのだが、町道になって
いる部分の拡幅のために寄付を行った部分の復元線は、現況の道路の法面の中間ではない
か。現場は有効幅員4メートルの道路が整備され、更にその法面もコンクリート擁壁できっちり
工事がされ、挙げ句に法面が終了した位置から民地よりに50センチの所にコンクリートの境
界杭まで設置してある。このコンクリート杭からは4m程の相違がある。

間違えるといっても、あまりに大きなずれがある。海岸線と、町道の間に民地が挟まれる格好
になっており、その民地の幅は、せいぜい20m程しかない。

海岸の護岸の方は、約1.5mの幅で明確に残っており、こちらの測量と、国土調査との復元
についても、どんぴしゃといっても良いくらいで、そんなにずれが無い。

この道路側のずれは、かなりの相違である。更に一部には形状の相違も見られる。

幸いな事に、道路と依頼地の分筆の境界線にしか相違は無い。道路反対側の山とそして依頼
者所有地との海との境界には相違がほとんど無いようだ。

どうも、このずれを作ったのは、昭和40年代に国土調査が終了後、当時県道であった、この
場所の拡幅工事(コンクリート擁壁工事)のため県が分筆し、寄付により所有権の移転を行った
ためらしい。

元の国土調査の道路位置を復元すると、現況道路の路肩になる。当時からこの道路は道路
位置の方が高く、0m〜10m程の高低差があり、それが石積み程度の擁壁であった事からの
擁壁工事であったらしい。

恐らく地元からの要望で危険であるとしての擁壁工事だから、土地の提供については寄付とい
う事になったのだろう。

どうも推測の域を出ないのだが、当時路肩までを道として、後は個人所有地であったものを、
所有者の立ち会いのないまま、常識的に判断して道路の勾配部分の根を境界として、分筆線
を入れたために起った相違のようである。




● 更に間違いが

西側の町道の方は直ぐ解る程の相違だったのだが、眼を北側の方に移したら、またまた相違
場所を発見してしまった。

西側は県道である。しかも、その位置はつい半年程前に県が分筆し買収をかけた場所ではな
いか。

「あ〜っ。また県か。」

こうなっては仕方が無い。

またまた県と一悶着か・・・。

気持よく、道路用地を提供するたびに、自分達の土地がめちゃくちゃにされている。善良な土
地所有者にどんな罪があると言うのだろう・・・。

こんなに違ってしまえば、本人達にどう説明すれば良いのだろう。

割り切れない思いと、これほど決定的に違えば調査士の裁量などという要素は入りこみようも
無く、単純に県が悪いと言い切れる気安さも生じる。

 一方、半年前に分筆した位置は、依頼地の北西側に流れる水路と依頼地の西側に接する県
道がほぼ直角に交差した位置から20mほど三角の形状に道路拡幅のための分割である。

提出された地積測量図を調査してみると、驚くことに、県発注の事業で、しかも図根三角点の
真下、直線距離で150メートル程度。もう一方の四等三角点も現地からは理想的な形で図根
三角点とのほとんど直線上に結ぶ形で現場からは400メートル程の直線距離の位置にある。

現場は図根三角点から恐らく直接見える、悪くても1点器械点を追加すれば間違いなく見える、
という条件でありながら、任意座標で提出してある。

更に、提出された地積測量図を登記所で調査。

現場に残されているであろう準拠点の位置とその座標値を確認する。丁度準拠点はプラスチ
ック杭をコンクリートで根巻きしたものを使用してあり、点の記も記載してあるので、大体の位
置の把握は出来た。

県の土木事務所に行くまでに、出来るチェックをやっておかなければ、いいかげんな事を言う
奴だと、軽くあしらわれてしまう。

まずは「ぐう」の音も出ないほどの証拠集めである。




●現地にて

早速、現地を再度チェック、特に既提出の地積測量図とのチェックを残存している準拠点から
行わなければならない。

既提出地積測量図に記載された準拠点の『点の記』から、まず現地の準拠点を探す。

だがここでも、準拠点の位置に相違が見られる。里道の西側の民地の位置にあるように点の
気には記載してあるが、その位置には無く、里道の東側にあるではないか。

更に記載された図の形状も現地と合わない。

もう1点は、道路のコンクリート擁壁の位置に表示されている。現地は農道とはいっても整備さ
れた3m幅の道路で、コンクリート擁壁で整備され道路はアスファルト舗装され、両側に水路が
配置されている。準拠点(引照点)は『点の記』の記載どうりの位置にあった。

土木事務所が提出した地積測量図から、準拠点の二つの点間距離をあらかじめ計算しておい
た。この準拠点が使用出来るものなのかどうか、発見した準拠点の片方に光波測距儀を、片
方にミラーを据えて距離の確認をする事にした。

ミカンの木が密生し、視通もなかなか難しい状態であったが、幸いな事に足元の方がわずかに
見える状態で、何とか距離を計測する事が出来た。

準拠点同士の距離を確認。

地積測量図に記載の準拠点の座標値から計算した距離とは、60メートル程度の距離でほぼ
3ミリ程度の相違。準拠点は実際に観測している値である事も解った。

後は、この準拠点が正しいとして、現地のどの位置を測っているのか、私が観測した値に統一
すれば、簡単に買収のために分筆した位置が解る。





私の失敗
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